ある日の昼下がりのことです。私は家で本を読むのに疲れて、散歩に出かけることにしました。
私の下宿先の近くには有名な散歩道があって、私はときどきそこへ散歩に出かけていました。その日も私はそこに散歩へ行くことにしたんです。
その散歩道をしばらく進んで、ちょっと休もうかなと思ったときのことです。私は脇道があるのに気が付きました。いつもなら無視してしまうものでしたが、その日はなんとなく、いつもと同じ道ではなくてその脇道の方へ行ってみたくなったのです。
私がしばらくその道を歩いて行くと、あるものが目に付きました。百合が咲いていたのです。それはとても綺麗な白百合で、二輪が寄り添うように咲いていました。
そのときの私はなぜか目を奪われてしまい、その百合から目を離せなくなりました。
周りには他の花が咲いているということもなく、二輪だけがひっそりと咲いていました。それがなんだか神秘的でした。
風が吹くと、私が見ていることなんて気づきもしない二輪の百合の花は、ゆらゆらとその華奢な茎を揺らしました。
どれくらい見つめていたかはわかりません。三十分だったか、もしかしたらたったの数分だったかもしれません。
ハッと我に返りました。
そして我に返った私は思いました。この美しい百合をどうしようか。
水をあげようか? もっと日当たりのいいところに生け替えてあげようか? それとも、摘んで家に飾ろうか?
いいえ、そんなことをする必要はありません。水をあげる必要はありません。日当たりが悪くてもこんなに綺麗な花を咲かせています。摘むなんて論外です。
そこに生を受けた美しく、しかし力強い花に、私たちが何かをする必要はありません。そんなことが頭に浮かんだ事自体、恥じるべきことでしょう。
私はその花にお辞儀をして、その場を立ち去りました。二輪の百合が私にお辞儀を返すことはありませんでした。
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